的を得るは誤用?的を射るの違いと辞書改訂で判明した真相
ビジネスの現場や公の場で「彼の発言は的を得ている」と口にした瞬間、「それを言うなら『的を射る』が正しい日本語だよ」と先輩や上司から窘められた経験を持つ人は少なくありません。長年にわたり、マナー本やビジネス文書の指南書では「『的を得る』は『的を射る』と『当を得る』が混同された誤用である」と断定され、使ってはならない表現の代表格として扱われてきました。
ところが辞書界の綿密な調査や文化庁の世論調査によって、その常識を根底から覆す歴史的な事実が明らかになっています。かつて「誤用」の烙印を押された「的を得る」が、なぜ現代において正当な日本語として認められるに至ったのか、その真相とビジネスで恥をかかない使い分けの極意を徹底的に解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「的を得る」は誤用ではなく、明治・大正期の文献にも実例が存在する正当な日本語表現であることが近年の辞書改訂で実証されている。
- 要点2:文化庁の「国語に関する世論調査」では「的を得る」を使う人が「的を射る」を上回る逆転現象が起きており、国民的な定着が進んでいる。
- 要点3:言語学的に正しくとも「誤用だ」と信じ込んでいる年配層や取引先が存在するため、ビジネス実務では「核心を突く」「当を得る」などの安全な言い換え表現を柔軟に選ぶことがスマートな大人の戦略となる。
【2026年最新】「的を得る」誤用説の真相|辞書界を揺るがした大改訂
かつて国語教育やマナー講習において「典型的な日本語の乱れ」として槍玉に挙げられていた「的を得る」ですが、国語辞書の記述は大きく舵を切っています。その発端となったのが、現代語の生きた用例を採録することで知られる『三省堂国語辞典』の歴史的な改訂です。
同辞典は2014年刊行の第7版において、それまで一部で「誤用」とされてきた「的を得る」を独立した見出しとして採録しました。編纂委員を務める言語学者・飯間浩明氏らが過去の文献を徹底的に調査した結果、夏目漱石の門弟たちによる近代文学作品や明治期の新聞記事、さらには昭和初期の論説文に至るまで、「的を得る」という表現が一貫して自然に使われていた事実が確認されたためです。
一方、かつて初版において「的を得るは誤り」と厳しく断定していた『明鏡国語辞典』(大修館書店)も、版を重ねるごとに記述のトーンを変化させました。第2版を経て刊行された第3版では、「古くから使われてきた経緯があり、必ずしも間違いとは言い切れない」という趣旨の解説へとシフトしています。弓矢で的を射止める動作だけでなく、「要点や好機を自分のものにする」という意味合いにおいて、「的」に「得る」が結びつく構造は日本語として極めて自然であるという見解が、現在の辞書編纂における共通認識となっています。

文化庁調査が示す現実|「的を射る」との使用率逆転と世論の推移
世間の言葉遣いの実態を示す公的データでも、極めて象徴的な変化が記録されています。文化庁が実施した「国語に関する世論調査」において、「的を射る」と「的を得る」のどちらを使うかという設問に対し、驚くべき結果が示されました。
調査結果によると、本来正しいと推奨されてきた「的を射る」を使うと答えた人が約40.4%であったのに対し、「的を得る」を使うと答えた人は47.9%に達し、過半数近い人々が「的を得る」を日常的に選択している実態が浮き彫りになりました。年代別の内訳を見ても、若年層のみならず働き盛りの40代・50代においても「的を得る」の支持率が高い傾向が確認されています。
| 項目 | 詳細・数値データ | 辞書・公的機関の基準 | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| 文化庁世論調査 | 「的を得る」47.9% vs「的を射る」40.4% | 言葉の定着実態を公式集計 | 一般社会ではすでに「的を得る」が優勢 |
| 三省堂国語辞典 | 第7版(2014年)より誤用説を撤回・立項 | 明治・大正期の確かな実例を採用 | 伝統的かつ論理的な正当性が確立 |
| 明鏡国語辞典 | 初版の「誤り」から第3版で解説改訂 | 「誤用と決めつけられない」旨を明記 | 規範派の辞書も実態に合わせて柔軟化 |
| 広辞苑(岩波書店) | 「的を射る」を主項目としつつ用例配慮 | 「要点をとらえる」意として運用 | 権威ある辞典でも排除しない方向へ |
慣用句の誤用ランキングにおいて、かつては「情けは人のためならず」「役不足」「敷居が高い」などと並んで必ず上位に挙げられていた「的を得る」ですが、これらとは決定的に異なる背景を持っています。他の慣用句が「意味の取り違え」であるのに対し、「的を得る」は古くから存在する語構成そのものが、後世の規範意識によって不当に誤用扱いされていたという特殊な経緯があるのです。
的を得ると的を射るの違いを徹底解剖|「当を得る」混同説のカラクリ
では、なぜこれほどまでに「的を得るは間違い」という俗説が日本全国に定着してしまったのでしょうか。その背景には、昭和後期から平成にかけて流行した「ビジネスマナー本」と、当時の国語評論家による短絡的な理屈付けが存在します。
誤用論者たちが拠って立つ根拠は、主に以下の2点でした。
- 「的」は弓矢で「射る」ものであり、「得る(手に入れる)」ものではないという論理的批判
- 理にかなっているという意味の「当(とう)を得る」と、「的を射る」が混ざり合って生まれた混交表現であるという推測
一見すると非常に説得力があるように思えますが、日本語の歴史的文脈に照らし合わせるとこの主張には大きな破綻があります。「得る」という動詞は、単に物体を拾うことだけでなく、「要点を把握する」「好機を捉える」「目的に到達する」という意味で広く用いられてきました。たとえば「要領を得る」「時宜を得る」「意を得る」といった慣用句と同様に、「的(物事の急所・核心)を手中に収める=的を得る」という表現は、意味論的にも文法構造的にも一切の破綻がありません。
つまり、「当を得る」との混同によって生まれた新奇な間違いではなく、「的を射る」と「的を得る」という2つの正当な表現が並行して使われてきたというのが言語学的な真実です。

【実態検証】利用者の生の声と現場目線で見えたリアル
辞書や言語学の世界で誤用説が否定されたとはいえ、ビジネスの現場におけるコミュニケーションは一筋縄ではいきません。SNSやQ&Aサイト、企業の社内チャットツールでは、今なお以下のような生々しい摩擦が報告されています。
大手IT企業に勤務する30代のプロジェクトマネージャーは次のように証言します。
「役員会向けのプレゼン資料に『的を得た顧客インサイトの抽出』と記載したところ、50代の役員から『日本語の基礎がなっていない。“的を射た”に修正するように』と赤字を入れられました。辞書では誤用ではないと知っていましたが、会議の場で言葉狩りの議論をしても不毛なので、黙って『核心を突いた』に書き直しました」
また、出版・メディア業界の校正現場からもリアルな声が聞こえてきます。
「記事原稿で『的を得る』が出てきた場合、校正者としては文法的に誤りとは指摘しません。しかし、読者の中に『誤用を見つけた』とクレームを入れてくる層が一定数いるため、無用なトラブルを避ける目的で『的を射る』に統一するか、別の表現へ差し替えるのが現場の暗黙のルールになっています」
このように、言葉の正当性と「現場での受け取られ方」には依然として深いギャップが存在しているのが実情です。
ビジネスで恥をかかないための使い分け術|的を得た発言の例文と言い換え表現
知識として「的を得るは正しい」と理解しておくことと、実際のビジネスコミュニケーションでトラブルを防ぐことは別問題です。相手の世代やリテラシーに応じて適切に使い分ける知性を身につけましょう。
実際のビジネスシーンで使える例文
- 会議での発言:「先ほど佐藤部長から的を得たご指摘をいただきましたので、施策の方向性を再検討いたします」
- 企画書・プレゼン:「ユーザーアンケートの結果を分析し、潜在ニーズに対する的を射たアプローチを提案します」
- 部下へのフィードバック:「今回の分析レポートは課題の当を得ており、非常に完成度が高い」
スマートにリスクを回避する類語と言い換え表現
年配の役員への報告書や、保守的なクライアント向けのメールなど、言葉の正誤論争を絶対に避けたいシチュエーションでは、以下の類義語への言い換えが極めて有効です。
- 核心を突く:問題の最も重要な中心部分を正確に捉えていることを示す、力強く誤解の余地がない表現。
- 要領を得る:話の筋道や要点がはっきりしており、要領よくまとまっている状態を表す。
- 当を得る(とうをえる):道理にかなっており、筋が通っていることを示す格式高い表現。
- 正鵠を射る(せいこくをいる):物事の急所を正確に言い当てるという意味で、格調高い文章やスピーチに最適。
- ツボを押さえる:口頭でのカジュアルな打ち合わせや、親しい同僚との対話で使える親しみやすい表現。

一般に知られていない盲点とネットの誤解
ネット上のマナー記事や知恵袋などで頻繁に見られるもう一つの深刻な誤解が、「『正鵠(せいこく)』に関しても『正鵠を得る』は誤りで『正鵠を射る』のみが正しい」という言説です。
「正鵠」とは弓の的の中心にある黒点を指す言葉ですが、こちらも「正鵠を射る」だけでなく、「正鵠を得る」という表現が明治・大正期の文豪たちの手によって数多く残されています。言葉の規範を語る人々が「射る」という弓矢の物理的動作に過度にとらわれるあまり、概念を捉える「得る」という抽象的な語法を一律に排除してしまったことが、こうしたネット上の誤解の連鎖を生み出しています。
【プロの結論】言葉の規範意識から見出すコミュニケーションの最適解
言語社会学の観点から見ると、言葉の「誤用警察」や「マナーマウンティング」が発生する背景には、自らが過去に身につけた知識への固執と、他者のミスを指摘することで自位を優位に保ちたいという心理的欲求が潜んでいます。昭和から平成にかけて刷り込まれた「的を得る=誤用」という知識は、それを信じる人々にとっては強固な規範となっています。
どれほど最新の辞書や文化庁の調査結果を根拠に正当性を主張したところで、ビジネスの場において相手を論破することは信頼関係の構築につながりません。真に教養あるビジネスパーソンに求められるのは、「言葉の本来の成り立ちと歴史的変遷を知った上で、相手に不快感を与えない表現を即座に選べる柔軟性」です。
【実践】使うべき場面・慎重になるべき場面の判断基準
- 「的を得る」「的を射る」を自由に使ってよい場面:
社内のフラットな議論、自社の同世代とのブレインストーミング、一般的なWebコラムやブログの執筆、日常会話。 - 別の言い換え表現(核心を突く、当を得る等)を選ぶべき場面:
保守的な大手企業や役員向けの重要提案書、公的な入札書類、厳格な校正が入る出版原稿、マナーに厳しい年配の取引先との初回商談。
【的を得る】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「的を得た意見」と目上の人を褒めるのはビジネス敬語として適切ですか?
A1:表現の正誤以前に、「的を得た(的を射た)意見だ」という言葉自体が「相手の発言を評価・採点する」ニュアンスを含みます。目上の人に対して使うと上から目線に聞こえる恐れがあるため、「大変勉強になるご指摘をいただきありがとうございます」や「本質を突いた貴重なご意見に感銘を受けました」など、敬意を込めた表現に言い換えるのが適切です。
Q2:広辞苑の最新版では「的を得る」は掲載されていますか?
A2:『広辞苑』第7版では「的を射る」が主見出しとして立てられており、解説文の中で意味の記述がなされています。以前の版に比べて用例への配慮は進んでいるものの、『三省堂国語辞典』のように「的を得る」を全面肯定した独立見出しにする形はとっていません。辞典ごとの編集方針による違いが残っている部分です。
Q3:入社試験の論文や就職活動の面接で「的を得る」を使うと減点されますか?
A3:採点者や面接官が最新の言語学的知見を持っているとは限らず、古い「誤用説」を信じている面接官に当たった場合、不当に減点されるリスクがゼロではありません。就職活動や昇進試験などの評価される場では、リスクを避けて「的を射る」または「本質を捉える」「核心を突く」といった表現を使用するのが賢明です。
まとめ:言葉の進化を受け止め、状況に応じた使い分けを
「的を得る」は決して乱れた日本語や誤用ではなく、歴史的な文献に裏打ちされた正当な慣用表現です。辞書の改訂や世論調査の数値が示す通り、時代とともに言葉の正しさは再検証され、更新され続けています。
しかし、言葉は相手に伝わってこそ意味を成す道具です。正しさを振りかざして無用な摩擦を生むのではなく、背景にある歴史を理解した上で、その場の状況や相手の心理に合わせた最適な語彙を選択できる大人のコミュニケーション力を磨いていきましょう。 (出典: 的 を 得る(Yahoo!ニュース))